いじめ自殺の加害者を逮捕する法律に全国民が反対する例

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※ 注意

 本コンテンツはいじめ自殺問題をあえて深刻に表現したフィクションです。実在の人物や団体とは関係なく、いじめ自殺の遺族を主人公としたストーリーを個人的な見解で書いたモノで正確な情報ではありません。その故に本記事を真実として拡散する事はフェイクニュースの拡散に当たる恐れがある為、情報の取り扱いは十分ご注意ください。

 また本コンテンツはいじめ自殺の遺族が学校の先生になっても『いじめではない』と言う例の4章であり、3章 いじめ自殺の加害者を擁護する人の例の続きになります。

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いじめ自殺の加害者を逮捕する法律が出来ない理由

 タダシの話によるとどうやらタダシはいじめ撲滅の為、様々な活動に参加し、主婦グループと学生団体で結成したグループの代表としていじめ関連法案の有識者会議に参加して欲しいと声がかかっていたようなのだ。

 そして今、俺はタダシの『いじめ加害者逮捕を目指す会』と一緒にその有識者会議に参加し、是非いじめ自殺の加害者に対する厳罰化に向けた法律立案を行おうとしていた。この会議には遺族関係者だけでなく、教育、メディア、警察、そして法案関連の官僚までいた。そして事前に知らされていたのだが、いじめ自殺の厳罰化に反対しているのが、警察や放送委員会、教育委員会のメンバーで構成された熊谷が率いるグループらしい。

 有識者会議開始早々、タダシはいじめ加害者への厳罰化の必要性を訴えた。

「このようにいじめ自殺の遺族は大切な家族を失い、その後、風評被害などで苦しめられいます。なのにいじめ加害者は少年院行き、または数年後には社会復帰するという対応になっています。軽すぎる刑罰に対し、世間は『なぜ?』と思っており、いじめ抑止に繋がっていないと見ています。その為、我々はいじめ自殺の加害者に対し、更なる厳罰化を行い、いじめ問題を深刻さをより世間にアピールするべきだと思っています。

 事実、いじめは相手の人権を蔑にする意味で基本的人権の尊重に違反します。その為、不十分な罰則は憲法違反に触れる恐れがあり、今後いじめを増やさない為にも、そして子供達に『いじめが如何に悪い事なのか?』伝える為にも、今まで以上にいじめ加害者への厳罰化、つまりいじめ加害者を逮捕する法案を求めます」

 タダシは話を終え、席に座るのを佐藤は見る。新たないじめや冤罪事件を防ぐ方法として法律を作り、いじめで逮捕出来る事が出来れば、真実がより掴みやすくなり、ファクトニュースによる誤情報に騙されにくくなるはずだ。タダシの言うとおり、今は学校やメディア、そして社会が間違った方向へと進んでいる。なら社会が何と言おうと従わらざる得ない、強制力のある法律を作り、いじめ自殺の抑止につなげるしかない。

 するとそれを聞いていた熊谷という男が立ち上がり、タダシ達に向かって言い放つ。

「・・・結論から申しまして、今の話では不十分です。こちらの見解としましては、例えいじめ加害者を逮捕する法案が出来たとしても最後には全国民が反対し、仮に運よく出来たとしても形骸化、または廃止すると思われます」

 タダシも同様、俺もついうっかり「「え?」」とつぶやいてしまった。というのも今発言した熊谷の言い分をまとめると、いじめ自殺の法律自体が意味がない上、我々いじめ自殺の遺族ですら法律を作るのに反対する、と聞こえるからだ。

「ちょ、ちょっと待ってください。今のあなたのセリフをそのまま受け取ると、いじめ自殺の遺族である我々も、いじめ加害者を逮捕する法律改正に反対すると聞こえるのですが、それで宜しいのでしょうか?」

「そのまま受け取っても構いません。そもそも現時点でいじめで逮捕する事は可能です。ただそのいじめが窃盗や暴行などで窃盗罪や暴行罪に該当するのならという話ですが、それより罪が軽い、悪口や仲間外れまで逮捕する事になれば、恐らく全国民が反対するでしょう」

「いや、お前、ちょっと飛躍しすぎ。そりゃ、窃盗や暴行によるいじめで逮捕出来るのは俺だって知っているよ。ただ悪口や無視などの行為で逮捕するのもやりすぎだ。でないとツッコミや冗談などの娯楽も逮捕の対象になってしまうからな」

 おい!タダシ、素が出てる!

「ただ俺が言いたいのはいじめ自殺に追い込んでおきながら書類送検とか少年院行きとか軽い罪で終わらせているのが問題だと言っているんだ!!人を自殺させておきながら加害者は軽い罪でのうのうと生きている。俺達いじめ自殺の遺族は、いじめっ子への処罰に不服としながらも我慢して、今までずっと生きてきたんだぞ。そんな俺達がいじめ加害者を逮捕する法律を自ら否定するとでも言いたいのか!!」

「現行法で不十分な対応をしている事は重々承知です。しかしあなた方が提案した法案はあまりにも問題が多すぎます。我々の見解では、いじめ問題は収縮せず、逆に更に深刻ないじめ問題を引き起こす悪法になると見ております」

「ほう、では何でそう思うのか、教えてもらおうじゃないか」

「その前に1つ質問させて下さい。”いじめ”とは何ですか?

「あのさ・・・そんな哲学みたいな話をしてっ」

「この場はこのいじめ問題解決に向けての会議です。ならいじめの定義をしっかり定めておく必要があります。でなければ曖昧な形で法案を作成する事となり、それが原因で国民の支持を得られず、法案可決に至らない場合もあります。それはあなた方が望む事ではないでしょう。だからこそいじめの定義の認識ははっきりさせる必要があります。答えて下さい」

「・・・少なからず学校などで弱い人に不快な事を続ける事だと・・・いや、学校だけでなく、会社や親戚同士の間でもいじめはあるから、学校に限らず、相手を不快にさせる行為全般なのではないでしょうか?」

「文部科学省が定めた定義だとこんな風になっています」

「いじめ」とは、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。

「・・・心身の苦痛を感じているもの。ここには児童生徒となっていますが、学校や子供に限っていじめと定義するという事でしょうか?」

「文科省の定義ではそう感じますが、いじめは職場や家庭内でも起きます。ですので学校や子供に限らず、いじめは相手に苦痛を与えるモノ。全般を指します」

「・・・話が見えねぇな。何で”いじめ”の定義を理解する事が、いじめ加害者を逮捕する法案を全国民が反対する事に繋がるんだよ?」

「つまりこういう事です」

 と言って、熊谷の部下が会議室のプロジェクターにノートPCを繋ぎ、画面にある記事を写しだした。佐藤たちはそれを見た瞬間固まる。なぜならそこには

○月○日、政治資金を不正に利用したとされる○○議員が都内で自殺していたことが分かった。

○○議員は虚偽の支出申告書類を提出し、約1億円をだまし取ったとして国会で責任追及されている最中だった。

遺書には「国民のいじめに耐えられない」と書かれており、警察は慎重に捜査する方針です。

「これは私の知り合いのメディアの方が書いた嘘の記事です。ただ実際に起こってもおかしくない事件とも言えます。仮にこの事件が現実に起きたとして、更にいじめ自殺で逮捕する法案が出来上がれば、果たして何が起こるのか?お分かりだと思います」

 熊谷の言いたい事が分かった。

国民全員逮捕になります」

「・・・い、いや、確かにいじめで自殺したみたいに見えるけど、自殺したのは政治資金を不正利用した政治家。自業自得的な部分もあるし、犯罪に対するバッシング行為はいじめの対象外にすれば良いのでは?」

「ではこれはどうでしょうか?」

 するとスクリーンの内容がまた変わり、また新たな記事が登場した。そして佐藤たちはまた固まる。なぜならそこには

○月○日 東京都内に住む20代女性が都内のマンションの駐車場で死亡しているを近くの住民が発見した。警察の調査によると亡くなった女性は自宅のマンションから飛び降りたと見ている。

自殺した女性は人気アイドルグループのわいせつ行為の被害者で、ファンから執拗な嫌がらせを受けていたとされていた。

遺書には「被害者なのに社会の皆が私をいじめてくる。死にます」と書かれており、警察は事件との関連がないか調査する方針です。

「・・・」

「これも作り話ですが、世の中には被害者なのに、相手が国民的人気アイドルだとファンによる逆恨みでバッシングする人もいます。無論、国民全員とまでいきませんが、他にも東名高速道路のあおり運転で、全く関係なかった建築業者が親族としてバッシングを受けた話もあります。このように嘘の情報で国民が間違ったバッシングをし、それが原因で自殺すれば、国民は無関係な人間をいじめで自殺に追いやった事になります。もしそんな事が起こればどうなるか、お分かりになりますか?」

「ふ、ふざけんな!!それは単なるトンチだ!!」

「・・・こじつけのように聞こえますが、しかし法律上可能となると果たして国民はどう思うでしょうか?その1つの例として共謀罪、いえ、テロ等準備罪の時の事を思い出して下さい。あの時は犯罪まがいな事を考えただけで逮捕されると世間が猛反発したと思われます。

 その法案が出来る前、ほとんどの世間が『テロリストに対する対策を』と声を上げていました。そしてこのテロ等準備罪は今後東京オリンピックを控えている中、外国人テロリストの情報を手に入れる為に、TOCに加盟する条件としてこの法案を作る必要がありました。となれば世間は加入する為にこの法案の成立に賛成するかと思いきや、現実は『犯罪行為を考えただけで逮捕出来る』と危惧し、猛反発が起きました。だからあなたが『いじめ加害者を逮捕する法案を世間が望んでいる』と言っても、いざ本格的に法案作成に取り掛かれば『国民全員を逮捕出来る法律』と猛反発されると予想されます。ましてや現段階ではいじめの定義が曖昧です。となればトンチであっても、法律上、国民全員逮捕が可能な法律と分かれば、一体どう国民が反応するのか?予想が出来ると思います」

「そんなの極論だ!!確かに法律上『誰もを逮捕しうる』ってテロ等準備罪の問題点を大勢の人が指摘したけど、確かその法律は猛反発を受けながらも国会で法案が成立した。ならいじめ加害者を逮捕する法律も同様に成立してもおかしくない!!」

「主観ではありますが、テロ等準備罪の場合、TOCの加入が目的で、テロ行為全般を逮捕するのが主の目的ではなかったと思われます。しかしこのいじめ加害者を逮捕する法律は、正にいじめ加害者を逮捕をする事が第一に考えられています。となればテロ等準備罪の時のように、外国人テロリストの情報を入手しないといけないのであればやむを得ない、という説得材料はありません。恐らく『いじめ自殺の世論の関心を利用して国民を弾圧させる法案に変えている』などと疑われ、なら国民を説得させる為にも、先の政治家やアイドル、そして特にフェイクニュースによる誹謗中傷で逮捕されない法案作成が必要になります」

 要は世間はいじめ自殺の加害者に対する厳罰化を望んでいるとは言え、法律的な不備があれば猛反発を食らう事になる。だからいじめの定義を明確にし、熊谷が今、言ったバッシングや批判などの差別化をして、国民を納得させないと俺達の法案がとん挫してするリスクが生まれてしまうわけか。

「だったらよぉ、例えばデモだったり、暴動だったり、集団で犯罪紛いな事をしても全員逮捕されてないよな!?国民全員逮捕とかぬかしているけれど、あんたの言う通り、法律的には犯罪であっても、現実的には関係者全員を逮捕するなんてないだろ?だからこのいじめ事件においても一部の過激なバッシングをした奴だけが逮捕されて、そしていじめ加害者が逮捕されて終わりだ。法律を極端に解釈しているんじゃねぇ!!」

 確かに実際、ネット上では誹謗中傷や批判が相次いでいる。なら事実上全員逮捕する事が無理で、一部の過激派の人達のみを逮捕する形に行きつくだろう。たださっき熊谷が言った通り、心配性の国民を納得させる説得材料が欲しい所だ。どうにか、いじめと批判を差別化する方法はないものか?

「それにそんなに心配だって言うのなら、今のはアイドルや政治家の話だったけど、学校で起きたいじめ自殺に限定して法律を作ればいいじゃん!他の事例を比べて問題が深刻化するのなら、その他の事例に合わないよう法律を作れば問題はなくなる。そうすりゃ、少なくともいじめとバッシングの差別化くらいは出来るだろう?」

 なるほど学校や子供など”場所”や”特定の人物”によって区別していけば、自ずと自分達の望む法律と差別化出来る。いじめ自殺の加害者を逮捕する上でも確かに”学校で起きたいじめによって自殺させた生徒”と限定させるのも良いかもしれないな。

 と佐藤が感心していた時、熊谷が声をあげた。

「果たしてそれを限定して作る事が出来るでしょうか?例えば学校内だけでなく、被害者宅・加害者宅、または塾などで酷いいじめがあった場合どうしますか?また自殺する場所も学校ではなく、自宅だったり、飛び降り自殺する為に全く関係のない高い場所だった場合、『法律の定義に反する案件である為、いじめではない』と対象外になりませんか?

「え?いや・・・それは・・・」

「それにいじめの形は様々です。最近の場合、スマホの普及により電子空間内のいじめも多発しております。LINEいじめなどがそれに該当します。技術の進歩によりいじめの形も変わってしまう為、場所や特徴によって限定すれば法律で適用されなくなり、逆に罪を免れる口実になります。現在では確かに加害者の逮捕は難しくても、民事による賠償請求は可能です。しかし我々が今回作成した法案の不備により、適用外の部分が出て、賠償請求の金額が少なくなれば、いじめ問題は更に深刻化します。最悪の場合、遺族側が泣き寝入りする可能性も高くなるでしょう」

 ・・・タダシは黙ってしまう。いじめ自殺と他の加害行為との差別化に向け、場所や特定の人物など、特定の行為に限定すれば良いと思っていたが、それだとその条件に該当しないいじめ自殺の場合は罪の対象外になってしまう。これでは逆にいじめ加害者の抜け道になる法律になりかねない。

「そ、そうだ!!現行犯逮捕なんてどうだ?いじめをしているのを見つけたら捕まえる。これならその時の判断で逮捕する事が可能だから、いじめと他の加害行為との差別化は必要なくなる。先生などがいじめをしている生徒を見つけたら逮捕する。そんな法案が出来れば良いのではないか!?」

「・・・例えばあなたが学校の生徒だったとします。そして誰かにいじめられていて、だからあなたは反撃しました。しかし運悪くその場面だけを通りかかった先生に見られてしまいました。そうなるとあなたはどうなりますか?」

 タダシは固まる。そして今の話を聞いていた佐藤、いやここにいる全員が『それでは反撃した生徒が逮捕されるのでは?』と思い、タイミングの悪さで被害者生徒を犯罪者に仕立てあげる、そんな法律を作る事になるのかと、この法案のデメリットに気づく。

「更にもう1つ言えば、教師がいじめに対し、正しい判断が下せるでしょうか?教師の中には片方が一方的に悪くても喧嘩両成敗や連帯責任など関係者全員が悪いと判断する人もいます。他にも環境の変化でいじめが起こる場合があります。例えば学校で新しい服装を指定したが、周辺の衣服店で生徒が殺到し、何人かの生徒が服を用意する事が出来なかった。その結果、違反した生徒は注意され、更に罰を受け、それに反発し、いじめに発展する。不幸な事にいじめとは学校のルールが原因で起こる場合もあります。いじめとは些細な行き違いや価値観の違いで起こりますし、起こした段階で逮捕されるのであれば、それは学級崩壊に等しい問題が起こります。最悪の場合、自分の優位性を作る為、生徒会や教師によるその法案を悪用したいじめが起こるかもしれません」

「な、ならそんな注意をした先生や生徒にも何かしら罰を与える法律にして・・・」

「・・・そんな事をすれば今度はいじめをしている生徒の方が有利になりませんか?例えばあなたが学校の先生だったとします。そしていじめをしていた生徒を見つけ、その子を注意したら、その生徒は『いじめられた』と言ってきたらどうしますか?」

 佐藤は頭を抱える。いじめは確かにいけない事だが、相手を不快にさせる行為をいじめと言うのであれば、注意もいじめの範疇に入る。少し極端なのでは?と思うかもしれないが、俺自身、その考え方に思い当たる節がある。体罰問題だ。体罰で生徒が自殺した問題で、文部科学省から体罰を禁止にする通知が届けられた。結果、生徒を叩く行為全般を禁止にするルールが作られた。しかし中には不良少年や暴力紛いな事をしようとしている生徒を力づくで止める方法までも体罰として扱われ、逆に”注意”を注意される事が起こっていた。そしてそれは我が校だけでなく、社会全体に起こり、つまり相手を不快に感じさせる行為の中に体罰が含まれてしまうのであれば、注意した先生も逮捕される事になりうる。それでは今後誰も注意する者がいなくなり、いじめを取り締まる事が出来なくなるという本末転倒な事が起こる。その為、佐藤自身もいじめ加害者に対する厳罰化に慎重にならざる得ないという考えが芽生えてしまっていた。

「注意がいじめに該当するのか?と疑問に持たれるかもしれませんが、いじめだけでなく虐待にも似た問題を抱えています。虐待事件においては現行法では『子供に対する注意』事は心理的虐待扱いにする事が出来ます。更に言えば逆に悪い事をしたのに注意しない事は『ネグレクト』ともなり、これも虐待になってしまう、言わば法律上の矛盾が存在しているのです」

 え?、とタダシ達のグループにいる主婦層から困惑した声が聞こえた。確かに親の中にはしつけと称して虐待紛いな事をする人もいる。だからと言って世の中にはパチンコなどで育児を放棄する親もいて、必要以上の育児をしない事も犯罪にする必要がある。しかし過剰教育と過不足教育による犯罪をどのように法律上で両立させるか?難しい内容だ。正直、昨今の虐待事件で、虐待もいじめに該当するわけだから、そんな矛盾が解消されないまま、いじめ加害者を逮捕する法案が出来れば、今後子供を育てる人達はどのように子供を接していけば良いのか分からなくなるだろう。

「またあなた方は現行法は基本的人権の尊重に違反すると仰いました。しかしあなた方が提案している法案は相手を不快にさせる行為全般が含まれており、『批判』もいじめの中に入っております。批判は言論の自由の1つとして認められています。相手を不快にさせる行為全般を逮捕とするのであれば、批判も対象となり、それは言論の自由の侵害、つまり憲法違反となり、あなた方の提案も憲法違反になるのです」

 もう何が何だか分からなくなってきた。俺は今日まで『いじめで自殺させたのになぜ加害者生徒を逮捕しないのか?』と思い続けてきたが、今、自分がこうやって法律を作る側に回って見ると、いじめで逮捕する問題点が見えてくる。挙句の果て、加害者の抜け道みたいな法律になろうとしているし、これでは俺が過去、警察や学校にやられた『いじめが確認出来ない』と同じ対応をする事になる。そんなのダメだ。何とかしないと・・・。

子供を自殺させた場合に限定する!!

 タダシは声を荒げ、熊谷達に言い放つ。

「あんたらの言った通り、いじめと他の加害行為が差別化出来ず、不当な逮捕を増やしてしまう俺達の提案に問題があるというのは分かった。ただ、だからと言って、いじめ自殺の加害者を比較的軽い罪で終わらせている現状も納得出来ない。だからせめて学校で自殺者を出した場合、酷いいじめをしていた加害者生徒は逮捕する、そんな法律は作るべきだ!」

 確かにいじめ自殺の加害者が比較的軽い罪で終えている事は納得できない。本当なら自殺する前の法律を作りたかったが、とん挫しかけるのなら、せめて自殺させた場合は逮捕する法律は作るべきだろう、と佐藤が思っていた時だった。

「・・・子供を自殺させた場合、と仰いましたが、では具体的にどのようにいじめで自殺したと証明するのですか?

「はぁ!?んなもん、自殺した生徒がいた場合、その生徒をいじめていた連中を捕まえて、一体どんないじめをしていたか突き止めればいいじゃなぇか!?」

「ではお聞きします。例えばある生徒が自殺したとします。そして学校でいじめられている事も確認しました。しかしその後、その子は親からも虐待を受けており、そして受験には失敗し、更に亡くなる前日恋人に振られたとします。その場合、いじめだけでなく、親からの虐待や学業不振、失恋など、自殺する要素が多くある中、あなたはいじめが原因で自殺したと判断すると言うのでしょうか?」

「・・・そんなの例外的な例、あんまないだろ?」

「私が言いたいのは、いじめがあったからと言って、いじめが原因で自殺したと判断するべきではないと言っているのです。この国ではかつていじめがあったからと言って、それが自殺の原因と決めつけ、無実の学生や学校を大バッシングした過去があります。

 ある自殺事件の例ですが、当初は学校で起こっていたいじめが原因で自殺したと見られてしましたが、調べてみると母親のネグレクトが原因で自殺した線が濃厚になりました。しかしいじめと自殺との因果関係を科学的に証明出来ず、更にその母親は学校で起きたいじめが原因で自殺したと主張した事から、無実の学校や生徒に対し、バッシングが起こりました。しかもそれは裁判が終わる5年も続き、僅かないじめがあったとしても、それを自殺の原因と決めつけるのは大勢の人の人生を狂わせる事に繋がるのです」

「それはおめぇらがちゃんとした初動捜査をしなかったからだろ?ちゃんと聞き込みをしていれば母親の虐待だって気づいたのに、捜査に何かしらの問題があって、あたかも社会のせいにしている、そうとしか見えないね」

「我々の捜査を問題視する発言になるかもしれませんが、捜査においても限界があるのです。あなた方は我々が正しく捜査すれば冤罪は防げたと仰いますが、自殺の場合、直接殺されたわけではない為、証拠がなく、亡くなった人の心を覗けるようにならないと、自殺した決定的な理由を見つける事が困難な案件なのです」

「例え亡くなった生徒の証言が無くても、周辺の人達の聞き込みがあるだろ!!

「周辺の聞き込みも確実なモノではありません。いじめ加害者が実は複数人のグループで、報復を恐れて誰も真実を言わないケースもあれば、学校の中の情報しか知りえない為に虐待の存在を知らず『いじめを見た。だからそれが自殺の原因だ』と主張する生徒もいます。生徒全員が真相を正しく全て把握していれば良いのですが、加害者は嘘をつきますし、先入観や思い込みで語る人もいます。

 更にいじめ加害者の存在があれば、親の虐待や失恋による自殺なのに、その加害者に罪をなすりつける人もいたり、『いじめられていたのに何でその子を助けなかったの?』と訊かれるのが怖くて真相を語らない人もいます。表に出ない情報もあれば、間違った認識で受け取って主張してしまうケースもある為、周辺の聞き込みを鵜呑みにして事件の真相を決めれば、犯罪の隠蔽に加担するリスクも出てきます。とてもではありませんが、裏を取らず、そんな言伝のみで判断する捜査は不安定で到底承認出来るモノではありません」

「・・・お前さぁ?言っている事は警察の立場からすれば妥当なのかもしれないけど、要は自殺事件においては確証を得られませんって自分達の捜査能力の問題を挙げているだけだろ?そしてそれは遺族の気持ちに応えれない、本当にいじめで自殺させても、いじめ加害者に十分な罰を与える事が出来ない、そんなの認めるわけにはいかない!!」

「・・・つまりタダシさんは、いじめがあれば、それが自殺の原因と決めても良いと仰りたいのですか?」

「え、いや、それは・・・」

 タダシは言葉に詰まる。その後もタダシと熊谷は、いじめがあればそれを自殺の原因にするべきなのかどうかの議論を繰り返した。しかし両者の主張は平行線を辿り、佐藤はこの二人のやり取りを見て、結局、いじめの原因を科学的に証明する事が出来ないから、結論を下せず、いつまで経っても議論が終わらないのでは?と見ていた。

 要は”疑わしき段階で罰するべき”か、”疑いの段階だから罰しないべき”か、捜査過程における問題になっている。そしてこの2つの考えの落としどころが見つからず、結局両者の言い分は平行線を辿ってしまう。遺族の立場として疑わしき段階で逮捕出来る方が望ましいと思っている。しかし佐藤自身、ファクトニュースでいじめ自殺を隠蔽した先生になってしまった立場。疑われている段階で逮捕出来るのであれば、俺も隠蔽者として逮捕される事になる。そんな社会の先入観によって逮捕者を決めつける法律なんてあって良いモノか?と佐藤は思った。

 そして更に熊谷はいじめ自殺における最大の難点を指摘する。

「ではタダシさん。もう1つだけ訊かせてください。仮にいじめで自殺させて逮捕出来る法律が出来た場合、いじめ加害者をバッシングして、その子を自殺させた場合、そのバッシングした人も逮捕されるべきでしょうか?

 この瞬間、タダシはまた固まってしまう。今までいじめ自殺が起きる度に学校の隠蔽行為が起きた。だからこそ社会のいじめを許さない声というのは真相を知る上において大きな原動力になっている。しかもバッシングによるいじめ抑止もある事から、もしいじめ自殺の加害者を逮捕する法律が出来上がれば『加害者生徒を自殺させたら、自分達も逮捕される』と誰も声を上げなくなるのではないか?

 タダシだけでなく、佐藤の同じ事を考え、これではいじめ加害者を逮捕するというより、”いじめ加害者”と”いじめを許さないと声を上げてくれた人”を逮捕する事になる。いじめ自殺の問題解決どころか、これではいじめを許さない人達を減らす事になりかねない。これでは何の為のいじめ自殺抑止の法律か。

 タダシ、いや俺を含む、この会議室にいる全員がいじめ自殺の加害者を逮捕する法律は事実上出来ないのでは?という諦めムードになっていた。良かれと思ってやった法律が逆にいじめ問題を避ける理由になってしまう。この会議においては、いじめ加害者になんらかの方法で厳罰化する方法を見つけても、結局は、正しくいじめ自殺の原因が特定出来ない問題から、冤罪問題を引き起こした当事者たちの言動もいじめ扱いになってしまう。

 タダシはこのジレンマから抜け出すよう議論したが、結局良い案は見つからず、いじめ自殺の厳罰化を実現させる為にはいじめとバッシングとの完全なる差別化が必要だと感じていた。しかし思いつかず、タダシは遂にしびれを切らし、

「お前は一体何なんだよ。結局はいじめ自殺の加害者に納得いく刑罰を与える事が出来ないから遺族に泣き寝入りしろ、みたいな雰囲気になるじゃないか。家族を失い、そして加害者を野放しにする。こんなの受け入れられるか!?」

「・・・いじめ自殺において遺族の気持ちに反する対応をしてしまうのは遺憾の意を表明します」

「そもそも何でいじめ自殺の真相を隠蔽するような事をするんだ?事件の真相を知りたいのは遺族なのに、なのに学校や警察などで事件の真相を公にしない。何故こんな遺族を置いてけぼりにするような対応ばっかりするんだよ?

「・・・正直申し上げまして、それが事件の早期解決に繋がるからです」

「は?」

「皆さんは隠蔽と仰いますが、調査の途中経過や、裁判結果などは遺族の方々にはお知らせ致します。しかし事件が起きてから調査が完了していない段階では、遺族の方々に途中経過を伝えれば憶測で判断され、事件が間違った方向へと進むリスクがあります。遺族の方々には申し訳ございませんが、調査結果が出るまでの間は、遺族から質問に答える事は出来ません。今までの話でも出てきましたが、いじめと自殺との因果関係は科学的に証明出来ません。その為、遺族がいくら何が自殺の原因なのかと尋ねられても、調査員の立場からすれば答えられるわけがなく、不幸な事に、それを他の人から隠蔽と見えてしまうのです」

「ふざけるな!!何が調査中の段階だから答えられないだよ!!お前ら、学校や警察は公務員だろ!!なら事件の真相を国民に伝えるのが筋ってもんじゃないのか!!」

「確かに国民主権、民主主義の世の中において、国民に真実を伝える姿勢は必要です。しかしこのいじめ自殺においては国民に真実を伝えない方が良い例もあります」

「は?」

「何故なら国民はこのいじめ自殺においては現場にいません。そして加害者への厳罰化も、隠蔽に対する批判も、場合によっては問題を悪化させる事態を招いており、もし国民がこの2点について考えを改めなければ、隠蔽もやむなしと見ています」

 なぜ熊谷はいじめ自殺の事件を隠蔽した方が良いと言うのか?

続き↓(途中から有料)

5章 国民全員がいじめ自殺の隠蔽に賛成する例